ホーム > 金田一館長の部屋 > 2020/11/19 甲府昭和高等学校で出張トークを行いました

2020/11/19 甲府昭和高等学校で出張トークを行いました

 

 令和2年11月19日(木曜日)、甲府昭和高等学校で出張トークを行いました。1年生2クラスの約80名を前に「言葉、日本語」について講演を行いました。生徒達は館長の質問に頭を悩ませながら、話についてきてくれました。

20201119_talk1.jpg20201119_talk2.jpg
(話をする館長の様子)
  

 

 皆さんは、本を読むのが好きか、読書感想文を書くのは好きか。自分は読書感想文があまり好きではなかったが、読書そのものは好きだった。

 実は、小学校の2,3年生の2年間は病気で入院していたので全然学校に行っていなかった。入院中は、ラジオを聴くか本を読むしかやることがなかった。退院して国語の授業で読書感想文を書くことになったが、小学校4年生にしたら、かなりの量の本を読んでいたので、簡単に書けると思っていたが書けなかった。理由は、読書感想文を書くような本を読んでいなかったから。

 自分が一番好きだった本は、地図帳、汽車の時刻表、観光案内書でそんな本ばかり読んでいた。さすがに地図帳では感想文は書けない。物語を読めと言われても当時の自分は物語を面白いとは思わずうんざりしていて、まっとうな、例えば「はだしのゲン」などの類の物語は読んだことがなかった。

 皆さんは真面目だと思うが、自分が高校生の時はどうやったら学校をさぼれるか、そんなことばかり考えて暮らしていた。学校は少しも楽しく感じられず、いけない高校生をしていた。皆さんは真似をしないでもらいたい。

 若い人の中には、何か毎日いやだなあと思いながら暮らしている人がいると思うが、年を取ると楽になるので慌てないで安心してもらいたい。心が焦っていて、将来どうしたらいいのか、役に立つ人間になれるかどうかも分からないと思うかもしれないが、あと10年くらい待って大人になると楽になる。大人になるとだめになる、汚くなると思っているかもしれないが、そういうことはない。きちんと大人になることができる。

 若い時は、自分の中に力が無いので分からないことが多いが、体力や記憶力は皆さんの年代が一番いい。心理学から言うと、記憶力は20歳を過ぎると衰えてくる。例えば、トランプで神経衰弱などのゲームをすると分かる。だから記憶力がピークに近いうちに、なんでもいいから覚えた方がいい。例えば、歴代天皇のお名前、英単語など。

 記憶力がいいことと頭がいいこととは違う。関係ないことを結びつける、覚えているいろいろな情報をつなぎ合わせる能力、柔軟さは、年を取った人の方がある。若い時に覚えたことはそれぞれがばらばらになっているが、それらを有機的に結びつけること、これが頭の良さだと思う。

 皆さんの年代は、とりあえず情報を貯めておく、そういう時期だと思う。今のうちにつまらないことと思われることでも覚えておくと後々役に立つ。大人になったら覚えるのが大変になる。覚えるのは今でいいが、結びつけるということがとても大切で、このことがいわゆる考えるということである。

 読書感想文は考えることであるので大切であり、つまらないと思うかもしれないが、でも面白い。本を読むと頭の中がぐじゃぐじゃになる。しかし、その時に、こうだった、こうだったと文字に書き表すと自分はこういうことを考えていたのかと分かる。考えてから書くのではない。書くということは実は考えることであり、書きながら考える。言葉にすることで考えることになる。書いたことで考えたことが分かる。

 小説家の村上春樹氏などは長い長い小説を書くが、最初から全部考えていたのかというとそんなことはない。書きながら考えている。書くことで自分はこういうことを考えているのかと分かり、次にまた書いていく。書くということは考えるためのとてもいい手段である。書くことで自分の考えが"外在化"し、客観化でき、言葉として形になる。人は自分が考えていることが実はよく分かっていない。考えることがこれからの皆さんの一番の仕事である。覚えることは今できるが、覚えたことを結びつけること、考えるということ、このことをこれから一所懸命やってもらいたい。

 考えることは面白い。皆さん国語が好きか。難しい言葉を知っているか。例えば、四文字熟語で「山紫水明」などの難しい言葉などは勉強しなくてはならないが、易しい言葉はあまり勉強しない。自分は日本語の教師で大学生に日本語を教えているが、実は日本語は案外できないということが分かる。

 例えば、「窓がある」と言う場合の窓の定義は? 開け閉めできることか、でも新幹線の窓は開けられない。窓を数える場合の基準は? 

 「入口」、「出口」と言う場合の違いは何か。「廊下に出る」と言うが、中庭の場合は、「出る、入る?」。中国の人は、「社会に入る」、「宇宙に入る」と言う。

 「机の前にいる、後ろにいる」と言う場合の違い、「椅子の上にいる」と言う場合はどういう状態か。

 「一日おき」と「24時間おき」とは違うのか、「一週間おき」とは、来週のことか、再来週のことか。 オリンピックは、「3年おき、4年おき?」などなど

 普段分からない国語の問題について、金田一が教えてくれると思って参加してくれているのかもしれないが、自分は答えを知らない。皆さんの頭の中をぐじゃんぐじゃんにすることが自分の仕事であり、趣味である。皆さんは自分自身で考えてもらいたい。

 窓はどうして数えることが難しいのか、例えば、英語ができる人に聞いてみたらいい。可算名詞、不可算名詞があることを習うと思うが、シュガー、ウォーターなどは不可算名詞、アップル、オレンジは可算名詞、ウィンドウは可算名詞であるが本当にそう言えるのかどうか。特定の言語に限らず、言葉というものはぐじゃぐじゃなものであり、そこに気付いているところから世の中は始まっていく。

 "孟母三遷の教え"は漢文で習うかもしれない。孟子のお母さんは、お寺の傍に住んでいたが、孟子がお葬式ごっこばかりしているので、市場の傍に引っ越した。そうしたら、今度はお商売ごっこばかりするようになり、次に学校の傍に引っ越した。そうしたら、お勉強ごっこを始めた。これで、この子は勉強が好きになると思い安心したという故事である。この場合、引っ越したの3回ではなく2回ではないか。ではなぜ3回引っ越したような気がしているのか、そういうことをこれから皆さんには考えてもらいたい。良く分かっているような言葉をもう一度考え直すことをしてもらいたい。例えば、「右」、「左」をどうやって定義するのか、「前」、「後」という言葉などはとても難しい。よく分かっているつもりの言葉をもう一度考え直すことをしてもらいたい。探求していくと大変である。もし、そういうことが楽しいと思ったら学に勤しんでもらいたい。父の春彦は、「勤しむ」という言葉が大好きであったが、要するに楽しんで勉強すること、楽しんで向かうこと、それを勤しむという。

 勉強がいやだなあ、つまらないなあと思っていたら、それはやめた方がいい。でも、何か今考えていることが面白いと思う人は勤しむことができるはずである。いろいろ覚えて、それらをつなぎ合わせて考えること、これが皆さんのこれからの勉強であろうと思う。コロナに負けずにがんばってもらいたい。

20201119_talk4.jpg20201119_talk3.jpg
(会場の様子)