ホーム > 金田一館長の部屋 > 2019/3/9 館長連続講座(第6回)を開催しました

2019/3/9 館長連続講座(第6回)を開催しました

 館長連続講座「寺子屋ことば学」の第6回講義を行いました。第6回のテーマは、『日本語を作るもの』でした。
 


会場の様子(会場の様子
  

 館長連続講座の初回にも言ったが、大人向けの講演会はどれも90分程度の1回限りのもの。連続して教えるという機会はなかなか無いが、今回の連続講座で得られた。教鞭をとる大学も定年になり、4月からは教授ではなく特任教授となるようだ。大学の先生というと、教えるよりも研究という意味合いが強い。コツコツ積み上げていく研究に長けているのは、身近にいた金田一京助だ。

 グリットは頑張る力、やり抜く力という意味があるようだが、自分としては周りの人に止められても、やめられない力ではないかと思っている。努力や才能というわけではない。人によっては音楽だったり、他のものだったりするかと思う。京助は学生時代に始めたアイヌ語の研究に夢中になった。また当時お金のなかった石川啄木を下宿させ優しくしていた。アイヌ語に対しても、石川啄木に対しても"交換"ではなく"贈与(ギフト)"のようなつもりだったのではないかと思っている。このような人が身近にいるので、研究はそういう人がするものだと思っている。「知るものより好むものが強く、好むものより楽しむものが強い」のではないか。楽しくて楽しくて仕方がないような人でないと研究はできない。自分にはできないと思っていて、研究はやらなかった。

 国語はやりたくないと思っていて、心理学をやった。祖父や父という看板を見ていて自分を見てもらえない。国語は文学ではない。言葉はどういうものかというと、国語より数学、理科に近いもの。作文を書くと自分は「さすがに金田一さんですね」と言われ、兄は「金田一さんなのに」と言われたこともあった。大学卒業後は昼起きてパチンコをして、そのお金で夕飯と本を買って読むという生活を3年くらいしていた。その後、留学しようかと思ったが、日本語教師の道へ進んだ。教えることで楽しんでくれることを知り、教えることの面白さを知った。大学受験は、受験勉強を楽しめたかどうかだと思っている。偏差値ではなく処世に必要な世間知が高い人もいる。勉強する楽しさを知らないのはもったいないので、その一歩となるよう、教鞭をとっている学生には教えたい。教えるのが嫌だと思ったら、さっさとやめようと思う。幸いなことに嫌ではないので続けている。

 教えることはお金"交換"ではなく、"ギフト(贈与)"である。何かをすると効率や費用対効果や、コストパフォーマンスが良いと言うが、"交換"という、ここ2000年くらい続いている考え方とは違うもの。だから"交換"という考え方では、なるべく早く、強くというのが自分たちにとっての進歩だと思ってきた。リニアが通って15分で東京から甲府まで来られるのは便利なのか。いままでは便利という考え方だったが果たしてそうか。その分幸せか、ゆったりできるか、と言ったら大間違いだと思う。いまは1時間30分なのが15分になり、その分1時間15分寝て過ごせるのかといったら、そうではない。15分で来られるのだから15分で帰り、その分仕事ができるのはないかと言われるので、どんどん不幸になるのではないか。

 便利さは交換。短い時間で利益をあげることができる、役に立つ。役に立つことは良いことだという原理で動いている。また数や数値を上げたい、増やしたいというが、もうそのようなことではなく、今後は質を高めることをしていきたい。それが"ギフト"というものだと思っている。僕らは"交換"、"ギフト"の二つの原理で動いている。損得ではない。自分が満足できるかどうか、自己満足の世界。家族や親が子供を育てるのは、"ギフト"。効率や交換の原理を持ちだしてはいけないのではないか。

 教育も効率や役に立つというのが優先されてしまってはいないか。小さい時から英語を役に立つから学ぶのではなく、違う文化があるというのを学ぶためにやるのでは良いかと思う。もっと違う文化を学ぶのであれば英語よりも、もっと近い国の中国語や朝鮮語を学んだ方が良いはずだ。役に立つためではなく、考えたり議論したりするのが楽しくなるような教育なら良いと思う。日本人は考えたり議論したりというのはどうも苦手だ。AがいてBがいて、という時に交換の原理が意識され、Aが勝つかBが勝つかになってしまう(交換)のが、本来はAとBが話し合ってCという新しい意見が出てくるのが議論だと思う。哲学とはみなさないから単に勝ち負けの話になってしまい、"学問"や"ギフト"ということを考えていないという印象がある。いろんな人の話を聞いて自分が少しずつ変わっていくのが学問。いろんな本を読み、考え、いろんな考えがあるのだということ思い、理性を高めていくものではないだろうか。

 




話をする金田一館長の写真
(話をする館長の様子)