-目次-
図書館で培うレジリエンス
山梨県公共図書館協会会長 小林久美
令和6年度山梨県図書館大会報告
大会テーマ「今、あらためて問い直す図書館と司書 ~多様化する図書館の役割と、司書に求められる資質・能力とその育成~」
各部会の活動について
児童奉仕研究部会・地域資料研究部会・読書推進研究部会
令和6年度県内事情
令和6年度事業報告
図書館で培うレジリエンス
山梨県公共図書館協会会長 小林久美
令和6年度第37回山梨県図書館大会報告
大会テーマ「今、あらためて問い直す図書館と司書 ~多様化する図書館の役割と、司書に求められる資質・能力とその育成~」
※講師等の発言は実行委員及び事務局が要約したものです。転載・2次利用は固くお断りいたします。
大会概要

記念講演「どうしたら図書館に子どもは来てくれるか?」
講師 杉山亮氏 (児童書作家・ストーリーテラー)
北杜市小淵沢町に移住し20年の杉山氏。 手遊びや言葉遊びで会場の雰囲気を温めてから、講演をスタートしました。歩くことが好きで、徒歩の旅の道中、図書館をみつけると立ち寄るそうです。実際に立ち寄った中から、京都府南丹市にある図書館のお話がありました。"本の貯金通帳"を利用者の方に発行していて、これは通常の読書記録とは少し違い、借りた本の定価が記録されるというユニークなものです。普段読まない本と出合うことに繋がると同時に税の教育にもなるという考えで導入されているそうです。図書館の本は無料で借りることができるけれど、共有財産として税金で購入している、通帳の金額を見ることで税は大切なものだという教育につながるということです。
講演タイトルの「どうしたら図書館に子どもは来てくれるか?」を話すためには、なぜ子どもたちに本を読んでもらいたいのか、なぜ子どもたちに図書館に来てもらいたいのか、なぜ図書館に来てくれなくなったのかを話す必要があると杉山氏。「本を読んでもらいたい」と「図書館に来てもらいたい」は違う。子どもたちに図書館に来てもらいたいのは、本に圧倒されてほしい、"知の海"を感じてほしい、本をたくさん読んでほしいから。そうすることで、自分にとってどういうものが良書か判断するアンテナが育つことが大切とのこと。また、本を読んでいる人が近くにいる環境は意味のあることだというお話もありました。
おはなし会に今、小学生はほとんど来ない。それは、おはなし会の大切な"おもしろさ"という部分ではなく、朗読の技術的なことに目を向けすぎてしまい、結果として小学生が来なくなってしまったと杉山氏。図書館に子どもたちに来てもらうためには、おもしろいおはなし会を開催し、大人にも来てもらえるようにすること、大人が上手におもしろがれるお手本になることで、子どもを惹きつけることができる。おはなし会で大切なのは、ハード(入れ物)である"本"ではなく、ソフト(中身)である"物語"の面白さを知ってもらうこと、とにかく"場"をつくることが大切で、杉山氏もそれに 協力してくださるという言葉が、なにより心強い一言でした。
最後は言葉遊びで講演を結んだ杉山氏。「自分より先に生まれた人たちが書いた本を読み、その世界で遊ばせてもらう」という杉山氏の言葉は、読書する楽しさを表すのにぴったりな一言で、これからもそんなふうに読書を楽しんでいきたい、楽しんでもらいたいと改めて思うことができました。充実した内容に参加者は満足そうな様子でした。
講師 鎌田和宏氏(帝京大学教育学部教授)
第1分科会では帝京大学教育学部教授の鎌田和宏氏にご講演いただきました。学校ではGIGAスクール構想の推進により一気にDXが加速し、コロナ禍を経て、GIGAスクール構想も第2期に入ろうとしています。端末使用はある程度定着しつつも、地域や学校差が大きくなっていると鎌田氏。 教育DXの現状については、文科省「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」(R5)の結果をもとに、1人1台環境の整備、回線状況、デジタル教科書整備率、教員のICT活用指導力、研修の状況が示されました。学校図書館の現状は、文科省「学校図書館の現状に関する調査」(R2)の結果をもとに、人的整備の状況と物的整備の状況、学校図書館の活用及び読書活動の現状が示されました。学校図書館図書標準が現代の教育課程に合っているかどうかは疑問ではあるが、その基準ですら達成していない学校や自治体が少なくなく、日本の学校図書館環境はかなり厳しい状況であると強調されました。 子どもの読書の状況では、子どもの読書活動の推進に関する有識者会議委員の経験から、子どもは読書から遠ざかっていると語られました。そして「子どもの読書活動の推進に関する第5次計画」について強調したい点は不読率を下げたいということと、多様な子どもたちの読書機会の確保の次にデジタルがきているということでした。
学校図書館の役割は学習指導要領に明記されているとおり読書センター、学習センター、情報センターです。そのうち読書センターとしては先輩方の努力によってそれなりに機能しているが、学習センターや情報センターとしてはまだまだ緒に就いたばかりであること、探究的な学習を行う際、学校図書館で一番大事なことは資料の充実で、授業で使える本があること、いい資料があると、図書館は使われるというお話もありました。
本日の主題であるデジタル時代の学校図書館では、学校図書館DXの4つの柱として、学校図書館環境のDX、学校図書館機能のDX、学校図書館資料のDX、学校図書館スタッフのDXが示されました。データベースや電子書籍の導入は学校図書館でも有効であり、不読の半分にリーチする一つの手立てとなるのではないか、といった話を始め、それぞれの実現に向けて必要なことや実際の取り組み事例などを具体的に提示していただきました。そして学校図書館のDXは最終的にラーニングコモンズの構築に行きつくのではないか、とのことでした。 質疑応答も含め、すぐに手をつけられそうなことから組織をどう変えていくかといった大きなことまで幅広く盛りだくさんな内容で、大変有意義な講演でした。

講義①「あえて、司書資格のこれから」
〈講師〉日向 良和 氏 (都留文科大学学長補佐・教授)
講義②「『何をなすか』ではなく、『いかにあるか』-経営マインドと地域社会の視座を持つ司書へ」
〈講師〉平賀 研也 氏(元伊那市立伊那図書館館長・前県立長野図書館館長)
第2分科会では、講師のお二人に、それぞれご講義いただきました。その後、会場の参加者からもご意見をいただきながら、クロストークを行いました。
講義①では、都留文科大学の日向良和氏にお話しいただきました。9割以上がモバイル端末を持ち、8割以上がインターネットを利用するなど、個人のデジタル活用が進んでいます。「AI・デジタル時代の図書館司書」として、これからはそこに住む人やそれぞれの自治体に合った個別のサービスを目指していく必要があると言えます。まずは司書がAIを使ってみて、できること・できないことを知り、何に使えるかを考えることが必要です。AIは日々進化していますが、複数の資料を掛け合わせたレファレンスや、対象者の情報リテラシーに合わせた情報の提供についてはまだ課題があり、司書の力を発揮する必要があります。時代に合った個別のサービスをしていくためにも、地域の様々な活動に意識をもって、図書館に何ができるかを考える司書を育成していく必要があります。また、自治体の様々なセクションや住民のつながりをつくれる司書に育ってほしい。さらに、これまでの方法を踏襲するのではなく、これまでのものをICTでやってみようとする姿勢をもち、社会の一員・地方公務員として住民のリスクを低減しようとする司書になってほしいとのことでした。
講義②では、前県立長野図書館館長の平賀研也氏に、司書がどのようにあるべきか、経営のマインドについてお話いただきました。図書館に求められる社会的役割は、公共図書館宣言(1994年)からユネスコ公共図書館宣言(2022年)にかけて、大きく変化してきました。視聴覚サービスをはじめ、ビジネス支援、レファレンスサービス、居場所としての図書館、バリアフリーサービスなど、技術的革新や社会の変化に伴い、求められることが年々膨大になってきています。しかし、一つずつの知識・技能を一人の司書が身に付けるには限界があります。今の司書課程は「思想・理念」と「技能・技術」はありますが、その二つをつなぐ「経営・戦略」が欠けているように思います。一人ひとりの司書が何を柱にそれぞれの図書館をつくっていくかを考える必要があります。情報や知識の形が変わり、知るプロセスが変わった現代で、利用者の「何を使ってどう調べるか」に寄り添える、発想支援をできるような司書を目指してほしい。求められることが多い現代ですが、全部一人・全部図書館だけで解決しようとせず、地域の皆さんや自治体の力を借りながら図書館をつくっていく重要性について述べていました。
その後、会場の参加者も巻き込み、クロストークを行いました。司書の育成についての難しさ、キャリアをつくれないという悩みを抱える司書が多い中で設定された今回のテーマについて触れられ、日向氏からは、図書館から外へ出ていく重要性についてのお話があり、平賀氏からも、受け身でなくコミュニケーションを企む必要性が挙がりました。最後に、図書館には本がある強みについて指摘があり、図書館の本が公民館に歩み寄っていくことがこれから必要になると日向氏。平賀氏も、民間の本のある場の取り組みとも一緒になって、それが私たちの日常になることが理想であると述べ、クロストークの結びとなりました。
各部会の活動について
児童奉仕研究部会
児童奉仕研究部会は、子どもの読書活動の充実と普及を図ることを目的に研究を行っています。研究会は、山梨県内の地域ごとA~Eの5ブロックに分かれて年4回、年度末には研究報告と学習会を開催しました。
今年度は部会全体として研究テーマを「展示について」で統一し、ブロックごとテーマに沿った内容で研究を深めました。Aブロックは「ボックスを使った小スペース展示」、Bブロックは「同じテーマ展示についての各館の創意工夫について」、Cブロックは「利用者参加型展示~展示の仕方を考える~」、Dブロックは「高学年向けおすすめの本ストの作成及び展示」、Eブロックは「子供たちの興味をひきつける要素を取り入れた展示の実践」をテーマに実施しました。計4回のブロック研究を重ね、第2回の全体会で研究発表、共有することができました。研究テーマに設定した"展示"は、動的ではないけれど、図書館に来館した子どもたちと本、そして図書館が繋がる重要な機会であり手段です。ゆえに、どのように子どもたちの興味を湧き起こすか、アプローチをするか、図書館が展示に込める想いも強いものです。今回、それぞれの研究成果を共有したことで幅が広がり、自館に持ち帰って実践に活かせるかと思います。
また、研究報告の後には、ちいさいおうち書店の越高一夫氏を講師に招き「子どもたちに手渡したい本」と題して講演会を開催しました。朝日新聞の"子どもの本棚"の選書を担当され、絵本専門士として幅広く活動されている越高氏のお話は、私たち児童奉仕に携わる司書に児童書の魅力を改めて伝える、思わず姿勢が正される力強いものでした。
時代とともに図書館を取り巻く環境は刻々と変化していきますが、"子どもたちと本を繋げる"という児童奉仕の使命は変わりません。子どもの読書活動が豊かなものになるよう、今後も研究を重ねていきたいと思います。
地域資料研究部会
地域資料研究部会は、山梨県にかかわる地域資料の取り扱い方などに関する研究協議を行い、その成果を公表することによって地域資料の保存や利用提供等、図書館サービスの質的向上に資することを活動の目的としています。
今年度は2回の研修会を開催しました。第1回は、山梨マークの作成についての研修と、あわせて「山梨県図書館情報ネットワークシステム」に関しての説明を行いました。
第2回は、山梨県立図書館 丸山直也副主査による「デジタルアーカイブの現在~地域資源の保存・継承・活用~」と題した研修を行いました。デジタル化における留意点や、デジタル資料の活用について実演を交えた紹介がありました。参加者からは「アーカイブの実務的な内容が学べた」「具体的な事例が多数紹介され参考になった」といった感想が寄せられました。
また、今年度は山梨県に関する人物についてまとめた「人物資料リスト」を更新しました。このリストは2年に1度データ追加や修正などの更新作業を行い、山梨県立図書館ホームページ内の「発見!やまなしナビ」で公開しています。また、昨年度はその活用方法についての情報共有を図り、積極的な活用に取り組んでいただいています。
今後も図書館サービスの向上のため、地域資料に関する講義、事例発表、見学等を開催したいと考えています。
読書推進研究部会
読書推進研究部会は、読書推進に必要な調査及び研究を行い、学校図書館及び読書や書籍に関係する諸団体と協力・連携し、県全体の読書活動の充実と推進を図ることを目的に、平成25年度設置されました。主な活動としては、これまでの山梨県読書推進運動協議会の業務を引き継いだ「こどもの読書週間」「読書週間」の行事報告や「敬老の日におすすめする本」「若い人たちにおすすめする本」の推薦、優良読書グループ推薦等を行っています。また、公益社団法人読書推進運動協議会からの機関誌「読書推進運動」、ポスター、ちらしの配布も行っています。
令和6年度県内事情
市町村立図書館の動き
- 南部町立南部図書館は施設の改修工事のため、7月から翌年2月まで休館した。
- 甲府市立図書館では設備故障のため、5月に臨時休館となった。
- 11月、南アルプス市立図書館では図書館のシステム更新に合わせHPリニューアルを行い、電子図書館サービスを開始した。
- 富士吉田市では館内の一部本棚を個人・団体に貸し出す「ひとハコ図書館」のサービスを開始した。
- 中央市は5月、富士河口湖町は10月に図書館公式インスタグラムを開始した。
- 富士河口湖町生涯学習館では10月に図書館50周年祭を開催し、記念の展示や貢献者への感謝状贈呈などを行った。
- 12月、全国各地のビブリオバトルに関するユニークな取り組みを表彰する「Bibliobattle of the Year 2024」の大賞を甲州市立塩山図書館が受賞した。
- 市川三郷町では公共施設の運用見直しにより、令和7年4月より市川三郷町立図書館の三珠分館、六郷分館を本館に集約することとした。
県立図書館の動き
- やまなし読書活動促進事業の一環として、11月に神永学氏、2月にアーサー・ビナード氏の講演会を行った。11月には「第11回贈りたい本大賞」の表彰式を開催。4,422点の応募作品から大賞3点などを決定した。
- 図書館情報システムの更新により、11月には各種機器の入れ替えを行った。3月末にはホームページのリニューアルと、山梨県図書館情報ネットワークシステム(県ネット)の機能追加、また、館内の利用者端末でマイナンバーカードが使用できるように更新を行った。
学校図書館の動き
- 山梨市では4月に電子書籍サービスを市内全11小中学校に導入した。
- 山梨県学校図書館教育研究会と山梨県学校司書研究会は7月に合同で研修会を実施。山梨県出身の児童文学作家の安東みきえ氏の講演会を行った。
- 県立高校図書館では前年度導入した図書館システムにおいて、個人端末からでも図書の予約ができるサービスを開始した。
- 県立昭和高校は昭和町立図書館と連携し、生徒が作成した本の福袋を町立図書館で貸し出すなど合同企画を実施した。
大学図書館の動き
- 都留文科大学図書館ではやまなし読書活動促進事業との連携事業として、2月、6月、8月の3回、出版関係者、書店関係者、県立図書館の金田一秀穂館長をそれぞれ招き、読書に関するシンポジウムを実施した。
- 山梨英和大学図書館学生サークルLIKEの「らいくん文庫」は9月に「こうふのまちの一箱古本市」に出店し、古本販売やリボンを使ったしおり作り体験などを実施した。
その他の動き
- やまなし読書活動促進事業実行委員会では、11月にBOOK MEETS NEXTとの共催「YAMADOKU BOOK FEST.2024」を開催。著名人による講演会や、作者とワインを飲みながら語り合うイベントなどを行った。
- 山梨県公共図書館協会と中央市が主催する「第37回山梨県図書館大会」が11月に開催され、児童書作家、ストーリーテラーである杉山亮氏の講演会と、司書の育成などをテーマとした2分科会が設けられ、館種問わず228人の参加があった。
令和6年度事業報告
総会
開催日:5月31日(金曜日)
場所:山梨県立図書館イベントスペース
議題:令和5年度事業報告及び決算報告・令和6年度事業計画及び予算
参加者:43名
第1回全体研修会
※山梨県立図書館主催・第1回図書館職員専門研修と合同開催
令和6年度第37回山梨県図書館大会
参加者:228名
児童奉仕研究部会
役員会 2回
地域資料研究部会
※山梨県立図書館主催・第5回図書館職員専門研修と合同開催