山梨県公共図書館協会会報 第39号
-目次-
「巨人の肩」であり続ける「つなぐ・つながる図書館」
山梨県公共図書館協会会長 河手 由美香
第107回全国図書館大会山梨大会報告
大会テーマ「知をつなぐ、甲斐(交ひ)の国から」
全国優良読書グループ表彰について
各部会の活動について
児童奉仕研究部会・地域資料研究部会・読書推進研究部会
令和3年度県内事情
令和3年度事業報告
「巨人の肩」であり続ける「つなぐ・つながる図書館」
山梨県公共図書館協会会長 河手 由美香
本年度は、第107回全国図書館大会山梨大会が、「知をつなぐ、甲斐(交ひ)の国から」のテーマの下、オンラインで開催されました。これからの図書館の役割や必要な連携の在り方等を考え、「つなぐ図書館」「つながる図書館」の可能性について、未来への希望につながる情報が、ここ山梨から発信されました。距離を超えて人が交わり、知の連携を深める大会となりましたのも、山梨県公共図書館協会会員の皆様の御協力のおかげだと考えております。この場をお借りして、感謝申し上げます。
さて、「つなぐ」という語が持つ意味には、①結びとめる、②絶えないよう・持ちこたえるようにする、③関係を保ち信用を取り結ぶ、などが用法として認められています。その意味から「つなぐ図書館」「つながる図書館」を考える時、①図書館が人と人・人と情報を結ぶ、②図書館が持続可能性を持つ、③図書館が事実や真理に素早くアプローチできる信頼される情報及び知の拠点として存在する、といったことが考えられます。昨年度から続く新型コロナウイルス感染拡大を機に、社会全体の様々な構造が大きな転換を余儀なくされている中で、私たち山梨県の公共図書館も、「つなぐ・つながる図書館」として連携し、山梨ならではの貴重資料の収集・資料のデジタルアーカイブ化をはじめとし、山梨から未来に向けて人々の希望となる情報を発信することに努め、山梨の図書館として持続発展を目指していきたいと思います。
「つなぐ・つながる図書館」の可能性については、本年度の全国大会基調報告において、日本図書館協会理事長の植松貞夫氏が、全図書館に向けて示唆に富んだメッセージを発せられました。図書館が利用対象者・設置主体者にとって存在感を高めるために、「利用者に発信する図書館」「利用者を啓発する図書館」として、新しい生活スタイルへの啓発、新しい価値観への転換を促す情報発信が、図書館にとって重要な活動として考えられるべきである、とのことでした。この報告で語られた「巨人の肩に乗る」(「先人の積み重ねた発見に基づいて新しい発見をすること」「新たな成果は過去の成果や知識の上で生まれる」の意)の話も印象的であり、あらためて図書館は、利用者が、新たな知を生み出す一助となるような、利用者にとっての「巨人の肩」であり続けたいと思いました。
第107回全国図書館大会山梨大会報告
大会テーマ「知をつなぐ、甲斐(交ひ)の国から」
※講師等の発言は実行委員及び事務局が要約したものです。転載・2次利用は固くお断りいたします。
大会概要
令和3年11月11日(木曜日)~12日(金曜日)まで、第107回全国図書館大会山梨大会が、公益社団法人日本図書館協会・山梨県・山梨県教育委員会・甲府市・甲府市教育委員会・山梨県公共図書館協会・山梨県内大学図書館部会・山梨県学校図書館教育研究会・山梨県高等学校教育研究会図書館部会の主催により、オンライン(動画配信)で開催されました。この大会は、図書館関係者だけでなく日頃から読書活動に携わっている人、また本や読書、図書館に関心がある人などが読書や図書館について考えるものです。
山梨の旧国名「甲斐(かい)」の由来には、山と山との狭間を意味する「峡(かひ)」のほかに、境界の意味を有し結節点の役割を果たした「交ひ(かひ)」という説もあり、「甲斐国=交ひ国」で開催する大会にふさわしく、オンラインという新たな交流の形により、人と情報、また、人と人とを結ぶ図書館の可能性を広げる大会にしたいという思いから、「知をつなぐ、甲斐(交ひ)の国から」を今年度のテーマに掲げました。
公益社団法人日本図書館協会理事長の植松貞夫氏による基調報告や、株式会社集英社代表取締役会長の堀内丸恵氏と山梨県立図書館館長の金田一秀穂氏による「これからの出版と図書館」と題した記念講演と、第1分科会から第16分科会が公開されました。
山梨県公共図書館協会は当大会の主催団体の一つとして大会へ参加しました。また、会員150名分の参加費を負担しました。
基調報告
〈報告者〉植松 貞夫氏(公益社団法人日本図書館協会理事長)
「知をつなぐ」図書館である意義、日本図書館協会図書館の発足、新型コロナウイルス感染症への柔軟な対応とその記録、拡大予防ガイドラインの作成・公表、読み聞かせ等の催しの動画配信の許諾取得、著作権法改正への対応、自然災害による罹災図書館への支援、図書館法施行70周年記念表彰の模様、国内公立図書館の設置状況、『日本の図書館2020』による実績、会計年度任用職員の課題や指定管理者導入状況などの報告がありました。
また、会員の獲得と活動活性化への取り組みを強化していくことや図書館をより効果的・効率的な体制にし、図書館の重要性と存在感を高める必要があると話されました。
植松 貞夫氏(公益社団法人日本図書館協会理事長)
〈対談〉
堀内 丸恵氏(集英社会長・日本雑誌協会理事長)
金田一 秀穂氏(言語学者・山梨県立図書館館長)
堀内会長は図書館でベストセラーだけを多く取り揃えるのは行き過ぎだとしたものの、図書館が本を多く貸し出すことで本が売れなくなることはなく、「出版不況=本離れ」ではないという見解を示されました。その根拠の一つとして、電子書籍や配信など本にアクセスする方法や本の購入方法が多様化していることを挙げ、書店の売り上げは苦戦しているが、本への需要はあり、本と接する機会は多くなっていると話されました。また、絵本を取り扱う出版社にとって図書館はショーウィンドウ的な役割を担っており、書店で手に入らない少部数もしくは高価な本を配架することも図書館にしかできない役割であることや、読書の機会を提供するという意味では、出版社と図書館は同じ目標を持った仲間だとも語られました。
その他、大会の詳細は山梨県立図書館所蔵の大会記録誌を参照してください。
全国優良読書グループ表彰について
全国優良読書グループ表彰は、読書推進運動協議会が、読書週間の行事の一環として毎年行うもので、今年で54回目となります。読み聞かせなどの実演活動や、読書支援、研究活動といった読書に関する活動をしているグループから表彰されており、今年は甲斐市立双葉図書館朗読ボランティア「みどりの風」が選ばれました。グループよりコメントが寄せられましたので、御紹介します。
甲斐市立双葉図書館朗読ボランティア「みどりの風」は、平成8年に双葉町立図書館(現甲斐市立双葉図書館)で開催された朗読講座の受講生により結成されました。学校・老人施設・病院・公民館・個人宅に出向いて、朗読を聴いていただいております。また、戦争体験の本を出版された方との「講演と朗読の会」も続けて参りました。
今回「みどりの風」は、優良読書グループの表彰を受け、県立図書館で表彰式をしていただきました。河手会長の温かいお言葉を聞きながら、いつも「みどりの風」を見守り後押しをしてくださった笠井初代館長や小田切社会福祉協議会会長、そして私たちの朗読を聴いてくださった多くの皆様のことを思い、胸がいっぱいになりました。今、双葉図書館には表彰状を中心に「みどりの風」のコーナーがあり、少し気恥しいですが長く続けてきて良かったと思います。私たちはこれからも「言葉で優しさを伝える」をモットーに活動を続けて参ります。そして、いつか記念の朗読会ができることを願っております。
感謝を込めて「みどりの風」一同
各部会の活動について
児童奉仕研究部会
児童奉仕研究部会は、子どもの読書環境の充実とその普及を図ることを目的として活動しており、地域ごとの5ブロックに分かれて、図書館の児童奉仕に関わる研究を行っています。
今年度も新型コロナウイルス感染拡大のため、前年度を踏襲し、各ブロックで研究を進めていく形となりました。Aブロックが「YA向けブックリスト『家族』・課題本『with you』の感想交流」、Bブロックが「おいしい絵本・食育」、Cブロックが「SDGsについて知ろう~小学生におすすめの本~」、Dブロックが「月別のおすすめ絵本(対象:小学校低学年向け)」、Eブロックが「乳幼児向けのおはなし会で活用できる絵本リスト」をテーマに実施しました。各館で出張等の制限に差があるため、対面または書面と開催方法は分かれてしまいましたが、各ブロック長の判断のもと、良書の選定やリストの作成等に励みました。残念ながら、今年度も統一研究、全体集会、学習会の開催は見送りとなりましたが、各ブロックの研究成果を共有することで、自館に還元することができ、来館者はもちろん、各職員にも心強い資料になったと思います。
また、昨年度とは異なり、第2回の役員会を対面で開催することが出来ました。昨年度から新しい形での児童奉仕研究部会が始まり、今までの反省や進め方、各館の状況等についての意見交換をすることで、意思疎通を図ることが出来ました。今後も検討が必要ではありますが、手探り状態だったアフターコロナの児童奉仕研究部会は、より良い一歩が踏み出せるのではないかと感じています。
新型コロナウイルス感染拡大により、子どもたちを取り巻く環境が急激に変化している中、子どもと本が出会える環境づくりをより一層整えていく必要があります。一人でも多くの子どもに本の楽しさが伝えられるよう、各職員の意識を高め、子どもの読書活動の充実に努めたいと思います。
地域資料研究部会
地域資料研究部会は、山梨県にかかわる地域資料の取り扱い方などに関する研究協議を行い、その成果を公表することによって、地域資料の保存や利用提供等、図書館サービスの向上に資することを活動の目的としています。
今年度は2回の研修会を開催しました。第1回は、山梨マークの作成について研修を行いました。あわせて「山梨県図書館情報ネットワークシステム」に関して、事前に受け付けた質問を中心とした説明および質疑応答を行いました。第2回は、山梨県立博物館学芸員中野賢治氏より「武田信玄の「遺産」とその実像―信玄堤と御幸祭ー」と題したご講義をいただきました。「武田信玄が作った信玄堤」によって「現在も」山梨県は水害から守られており、「信玄堤を顕彰するために」御幸祭が行われている、という定説について、古文書による検証をお話しいただきました。資料を丁寧に読み解くと、現在「信玄堤」とされている大部分は江戸時代以降の整備であること、信玄堤と御幸祭の関係性は昭和30年発行の『龍王村史』に起因するもので、地域の利害を反映して定着したと考えられること等、地域資料に掲載されている「当たり前」が覆されるお話を伺えました。
2回の研修会を通して、レファレンスに際しては先入観を捨て資料を丹念に調べること、そのために資料整理を確実に行うことの重要性を再認識しました。
今後も図書館サービスの向上のため、地域資料に関する講義、事例発表、見学等を開催したいと考えています。
読書推進研究部会
読書推進研究部会は、読書推進に必要な調査及び研究を行い、学校図書館及び読書や書籍に関係する諸団体と協力・連携し、県全体の読書活動の充実と推進を図ることを目的に、平成25年度設置されました。
主な活動としては、これまでの山梨県読書推進運動協議会の業務を引き継いだ「こどもの読書週間」「読書週間」の行事報告や「敬老の日におすすめする本」「若い人たちにおすすめする本」の推薦、優良読書グループ推薦等を行っています。また、公益社団法人読書推進運動協議会からの機関誌「読書推進運動」、ポスター、ちらしの配布も行っています。
令和3年度県内事情
市町村立図書館の動き
- 5月に富士川町は、新設される国合同庁舎1・2階に、町立図書館を新設することを発表。開架延べ床面積は約790㎡、蔵書数10万冊を目指す。現在の公民館図書室より閲覧席を増設し、開館時間を延長、職員も増員して、2022年に開館を予定している。
- 10月に韮崎市立大村記念図書館と市民交流センターニコリは、開館10周年記念企画としてノーベル医学生理学賞を受賞した同市出身の大村智北里大学特別栄誉教授による講演会「読書と私」を開催した。
- 南部町は、南部町立富沢図書館の老朽化に伴い、旧富河中学校校舎を改修して11月に移転開館した。面積は約376㎡。今後、放課後児童クラブの活動スペースや、町教育支援センター等も入る複合施設となる予定である。
- 12月から3月、北杜市ながさか図書館は館内工事のため休館した。
- 2月に笛吹市境川図書室が閉室し、笛吹市役所境川支所で貸出・返却業務を行っている。また、韮崎市立大村記念図書館は開館10周年記念として、韮崎市出身の実業家・小林一三が創設した宝塚歌劇団の公演プログラムや雑誌など計約400冊を展示した。
- 3月に上野原市立図書館は秋山分館を年度末に閉室することを発表した。4月からは秋山老人福祉センターに月1回、移動図書館を開設する予定。
県立図書館の動き
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4月に「図書カフェby白州・山の水農場」がオープンした。
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5月には交流エリアが、感染症防止対策の基準を満たしていることを認証する県の「やまなしグリーン・ゾーン認証」施設となった。
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11月に「第8回贈りたい本大賞」として、応募総数4,281点から大賞3点を決定し、表彰式を行った。表彰式後、いとうせいこう氏と金田一秀穂館長によるトークショー「言葉にすること」を開催した。
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12月に山梨に関する情報を発信するポータルサイト「発見!やまなしナビ」の改ざんが発見され、公開を停止した。
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1月に県立甲府工業高校建築科の3年生6人が製作したブックトラック3台が寄贈された。
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2月に館長企画事業としてマーシャ・クラッカワー氏による講演会と、金田一館長との対談が行われた。
新型コロナウイルス感染症の影響
- 2020年から継続して発出されていた山梨県の特別協力要請により、各図書館では開館時間の短縮、サービスの制限などの対応を取ってきた。8月6日、山梨県は新型コロナウイルス特措法に基づく緊急の協力要請を発出し、不要不急の外出自粛、イベントや会議の延期・中止を求めた。県内の多くの公共図書館がこれに基づき休館し、臨時窓口での予約資料の貸出のみなどの対応を取った。8月20日には、山梨県が新型コロナウイルス感染拡大に伴うまん延防止等重点措置の対象となり、甲府市・富士吉田市など18市町村が対象区域に指定された。これにより、県内の多くの公共図書館は予定していた休館期間を延長した。また、複合施設内にワクチン接種会場が設置されたため、臨時休館等の対応を取った図書館もあった。9月12日の解除後、各図書館は開館時間の短縮、入館者数や座席利用の制限などの制限付きで開館し、その後徐々に制限を緩和していた。その後、年末前後から感染者数が再び増加し、1月から3月にかけ、お話会やイベントなどの事業が中止された。再開していたサービスの縮小や、臨時休館・臨時窓口対応を取った図書館もあった。
その他の動き
- 6月に山梨県は、県内各地の図書館を拠点に、地域の歴史文化に関する情報を収集・継承するため、資料、音声、映像データなどをアーカイブ化する「山梨ふるさと記憶遺産プロジェクト(仮称)」構想を発表した。DX社会に即し、図書館の知の拠点としての機能を高め、地域活性化につなげることが目的で、今後検討を進める。
- 10月に甲州市立勝沼図書館「カムカムクラブ」は博報賞を受賞した。市内の小学3・4年生がアニマシオンにより読書の楽しさを知り、また図書館について学ぶなどして、地域の読書活動の活性化につながっていることが評価された。
- 11月11・12日に日本図書館協会、山梨県、甲府市ほかは、第107回全国図書館大会山梨大会を開催した。テーマを「知をつなぐ、甲斐(交ひ)の国から」として、集英社の堀内丸恵会長と山梨県立図書館の金田一秀穂館長による対談を含む全体会と、全16分科会をオンラインで開催・配信(配信期間は12月31日まで)し、交流サイトも開設された。全国から1,400人を超える参加があった。
- 市川三郷町は、合併前の旧3町(市川大門、三珠、六郷)の町誌をデジタル化する取り組みを始めた。将来的にはインターネット上で公開し、キーワードによる検索機能の整備を目指す。対象となるのは、1967年刊行の「市川大門町誌」、1980年刊行の「三珠町誌」、1982年刊行の「六郷町誌」。
令和3年度事業報告
総会
開催日:5月28日(金曜日)
場所:山梨県立図書館 イベントスペース
議題:令和2年度事業報告及び決算報告・令和3年度事業計画及び予算
参加者:36名
第1回全体研修会
開催日:5月28日(金曜日)
場所:山梨県立図書館 イベントスペース
内容:「気付きを上げる図書館接遇」
講師:加納 尚樹氏(接遇コンサルタント)
参加者:40名
※第1回図書館職員専門研修と合同開催
児童奉仕研究部会
- 全体会
第1回:6月17日(木曜日)書面開催
第2回:2月17日(木曜日)書面開催
・Aブロック 3回
・Bブロック 5回
・Cブロック 3回
・Dブロック 5回
・Eブロック 3回
地域資料研究部会
第1回:7月21日(水曜日)午後1時30分~4時
山梨県立図書館 多目的ホール
- 総会
- 研修会
①山梨マークの作成について
②山梨県図書館情報ネットワークシステムについて
③山梨県人物資料リストについて
第2回:12月15日(水曜日)午後1時30分~4時
山梨県立図書館 イベントスペース西
- 研修会(第5回図書館職員専門研修と合同開催)
「武田信玄の「遺産」とその実像―信玄堤と御幸祭―」
中野賢治氏(山梨県立博物館学芸員)
刊行物
「山梨県の図書館2021-山梨県図書館白書-」
「こどもにすすめたい本2022」
令和3年度の山梨県図書館大会は休会し、上述の第107回全国図書館大会山梨大会に主催団体の一つとして参加しました。