山梨県公共図書館協会会報 第36号
-目次-
人生100年時代の公共図書館
山梨県公共図書館協会 会長 小尾 きよこ
平成30年度山梨県図書館大会報告
大会テーマ「図書館の可能性を広げよう~地域の活力源をめざして~」
各部会の活動について
児童奉仕研究部会、地域資料研究部会、読書推進研究部会
平成30年度県内事情
平成30年度事業報告事務局だより
人生100年時代の公共図書館
山梨県公共図書館協会 会長 小尾 きよこ
平成最後の2018年度は、山梨県図書館界にとって嬉しいニュースが続きました。優れた子供の読書活動の取組に対して文部科学大臣表彰を受けたのは、南アルプス市立南湖小学校、身延町立身延中学校、大月市立図書館、山梨子どもの本研究会の原庚徳氏。第51回全国優良読書グループ表彰では、南アルプス市立図書館を中心に活動している「すずの会」。ぶどうとワインの資料を収集して資料展を毎年開催している甲州市立勝沼図書館は、「Library of the year 2018」の最優秀賞とオーディエンス賞のダブル受賞を果たしました。
また、昨年放送されたNHKスペシャル「AIに聞いてみた どうすんのよ!?ニッポン」第3回「健康寿命」では、健康寿命を延ばすヒントとしてAIヒロシは、本や雑誌を読むことを挙げました。健康寿命が長い県として山梨県(男性全国1位、女性全国3位)が取り上げられ、県立図書館での高齢者の様子や読書環境について紹介されました。山梨県は、人口100万人当たりの図書館数が63.0館と全国平均の2.5倍で全国1位。総務省の家計調査によると、甲府市の書籍1世帯当たりの年間支出額が2年連続全国1位。県内小中高ほぼ全ての学校に学校司書が配置されており、司書配置率も全国1位。このような長年続いている環境が、子供時代から生涯にわたる読書習慣を培い、また県民の読書習慣の基盤を支え、健康寿命に影響を与えているのだと思います。
さらに、市町村立図書館では、乳幼児期のブックスタートや読み聞かせを充実させたり、読書通帳や読書手帳を導入したり、甲斐・本の寺子屋を開始したりなど、各地域の実態に即して、読書推進のための新たな取組を始めています。また、阿刀田県立図書館名誉館長発案によって平成26年度から始まった行政・公共図書館・書店が一体となっての取組「やまなし読書活動促進事業」の「贈りたい本大賞」を始めとする各事業への応募数・参加者数も年々増え続けています。
知識・情報・技術をめぐる変化の早さが加速度的となり、情報化やグローバル化といった社会的変化が人間の予測を超えて進展する中で、今こそ知の拠点として、文化の拠点として、人々の生涯学習を支え、地域の活性化を図るために、各地域や学校で取り組んでいる読書活動を連携させて「やまなしの読書活動」として広く展開していくとともに、探究活動や課題解決のための図書館としてレファレンス機能のさらなる充実を図り、質の高いサービスを県民に提供していくことが重要です。そして、人生100年時代の、県民一人一人の「知力」を支え、地域の活性化に取り組んでいきたいと思います。
平成30年度第32回山梨県図書館大会報告
大会テーマ「図書館の可能性を広げよう~地域の活力源をめざして~」
・大会概要
・記念講演
・第2分科会
※講師等の発言は、大会当日1回限りを前提とした発言内容を実行委員及び事務局が要約したものです。
転載・2次利用は固くお断りいたします。
大会概要
平成30年11月30日(金)、第32回山梨県図書館大会が、山梨県公共図書館協会・富士河口湖町・富士河口湖町教育委員会の主催により、富士河口湖町勝山ふれあいセンターを会場に開催されました。この大会は、図書館関係者だけでなく日頃から読書活動に携わっている人、また本や読書、図書館に関心がある人などが一堂に会して、読書や図書館について考えるもので、当日は168名の参加を得て、充実した研修会となりました。
これからの図書館は、財産である「知力」を種として、地域に「活力」を生み出す役割が期待されています。積極的にその一歩を踏み出すために、今、何ができるのか。地域の皆さんと共に考えるべく、「図書館の可能性を広げよう~地域の活力源をめざして~」を今年度のテーマに掲げました。
開会式では、全国優良読書グループとして選ばれた、南アルプス市立図書館朗読ボランティア「すずの会」の活動が紹介され、山梨県公共図書館協会会長より表彰状と記念品の伝達がありました。その後、江宮隆之氏と堀内亨氏による「史料を読み解く 創作に生かす」と題した記念対談が、午後からは2つの分科会が行われました。
記念対談 「史料を読み解く 創作に生かす」
講師
江宮 隆之氏(作家)
堀内 亨氏(山梨県立富士山世界遺産センター主幹)
〇私と図書館
江宮氏:私は、作家という仕事は図書館がなければまともにできないだろうと常々思っている。最近の図書館はレファレンスがとてもしっかりしているので、秘書の役目も果たしてくれる。幼いころから本が好きで、学校の図書室や近所の図書館でよく本を借りた。その後山梨日日新聞社の記者になったが、何かあると県立図書館へ調査に出向いた。そう考えると人生そのものが図書館である。司書・利用者・選書の力が三位一体になって良い図書館ができ、さらなる可能性を追求していけるのだと思う。
堀内氏:県史や記念誌といった歴史の出版物を作る際にも、図書館は欠かせない。昨年、江戸期の心学者・五味安兵衛(荒川村、甲府市荒川)という人物の調査を行った。インターネットでは手がかりが得られず、県立図書館へ足を運んだ。事典をひくと戦時中に出版された本があることが判明し、それを書庫から出納してもらって詳しく調べることができた。身近に図書館があると、何か調べるときのきっかけとして非常に有益であると改めて思った。
〇執筆エピソード
江宮氏:近著『満洲ラプソディ 小澤征爾の父・開作の生涯』の主人公・小澤開作は、指揮者・小澤征爾の父で、現在の市川三郷町出身だということは以前から知っていた。「生誕120年だから本を書かないか」と言われ、調べてみるとおもしろくなり書き始めた。小澤開作や浅川巧のように、歴史に埋もれてしまった人のことを書くのは楽しい。そして、そういった人のことを調べるには、活字としてきちんと残されている図書館が頼りだ。
図書館には公文書を残すという役割もあると思う。合併によって消えゆく市町村の公文書的資料を残していけるのは、図書館しかない。そういうものを大事にしてもらいたい。
堀内氏:山梨県の歴史について調べるときにはまず『甲斐国志』に当たる。立派な資料であるがゆえにどうしても頼らざるをえない。『国志』は、当時の代表的な甲州に対する考え方の事例として、19世紀初めの甲州人がどういう感覚をもっていたかという視点で見るべきだが、我々はつい書かれていることが全て正しいと思いがちである。『国志』が、信玄の事績として考証している事象は少なくない。ところが、実は、父の信虎、あるいは子の勝頼の事績であったというものもあったのではないか。『国志』の記述を鵜呑みにするのではなく、現在の視点で再検証してみる必要もあるだろう。
〇市町村立図書館の取り組み
江宮氏:南アルプス市立中央図書館では「ふるさと人物室」を併設し、南アルプス市ゆかりの人物を集めて紹介する展示を行っている。これは中央図書館の司書が図書館の業務と並行して行っており、本当に頭が下がる思いだ。しかし、この仕事を通じて郷土を隅々まで知ることができ、同時に様々なノウハウも身につく。それが図書館全体の財産になり、次の世代につながっていく。これはまさに図書館の可能性だろう。
甲斐市立図書館では、長野県の塩尻市立図書館を参考に「甲斐・本の寺子屋」を始めた。書き手・作り手・売り手・読み手の4つのジャンルの人が集まり、本に親しんでもらう機会を作っていこうという取り組みである。これは他の図書館も始めるといいし、もっと広域的に取り組んでもいいだろう。それから今年話題になったのは、「Library of the Year 2018」を受賞した甲州市立勝沼図書館だ。ぶどうとワインの資料を収集し、展示している。どの図書館も独自のカラーを出していこうとしており、それがその地域・郷土に立脚しているところが素晴らしい取り組みだ。
堀内氏:現在勤務している富士山世界遺産センターでは、一角に富士山の本を集めたコーナーを作っているが、それを頼りに来館してくれる人もいる。この夏休みには静岡県の中学生が宿題のために来館した。それに対してどこまで答えたらいいのか困ってしまい、司書の立場について考えさせられた。何かを調べるときのきっかけになるのは本であると強く思うのだが、それをどのように皆さんに伝えたらいいのか難しい。
〇読書の力、活字の力
江宮氏:『白磁の人』という小説は24年前に書いたものだが、当時、青少年読書感想文全国コンクールの課題図書になり、それを読んでくれた県内の高校生が文部大臣奨励賞に選ばれた。そして今年、当時は生まれていなかった東京の高校生が、課題図書ではない『白磁の人』を図書館で借りて読み、感想文を書き、それが内閣総理大臣賞に選ばれた。20年以上前の本であっても、読んでおもしろいと思って感想文にしてくれたことが嬉しい。これが読書の力だと思う。
堀内氏:インターネットは便利だが、こちらから働きかけないと広がっていかない。例えば富士山には多くの異称があり、様々な字を当てるので、検索してもヒットしない場合もある。図書館に行くと本が分野別に並んでいるので、1冊手に取ってみると、その近くで別の本が呼んでいると感じることがある。行きづまったときに助けてくれるので非常にありがたい。
〇図書館への要望
江宮氏:市町村立図書館に対して。まずは、若い世代にどう本と付き合ってもらうかということを考えてほしい。新聞社も活字離れで困ると言っているが、そういうところと連携して、もっと本を読む仕掛けを作っていくといい。それから、どんなレファレンスにも対応できるように自分たちを鍛える司書であってほしい。司書はあらゆる世代の様々な利用者に対応しなければいけないので、人間性も能力も必要だ。レファレンスを通じた利用者との共同作業が自分の実になるということを、常に頭に入れておいてほしい。さらに、選書の能力と同時に捨てる本を選ぶ能力もつけてほしい。選書と廃棄は裏表であり、そこで司書の力量が試されると思う。
堀内氏:県立図書館に対して。新聞や雑誌を大量に残していく、あるいはそれをマイクロフィルムなり電子媒体にして保存していくというのは、全部の図書館でできるわけではない。また、研究に必要な基本的な専門書は高価なものが多く、費用の面でも保存の面でも個人でまかなうのは難しい。これらの資料を継続的に収集するのは県立図書館しかないだろう。今後もバランスを取りつつ良い資料を収集していってもらいたい。
〈シンポジスト〉豊田 高広氏(愛知県田原市図書館 館長)
〈シンポジスト〉宮川 大輔氏(有限会社 宮川春光堂本店 専務取締役)
〈コーディネーター〉日向 良和氏(都留文科大学 准教授)
〇事例1 愛知県田原市図書館 館長 豊田 高広氏
田原市は愛知県の東寄りにある渥美半島のほぼ全域を占める、人口約6万人の町である。一般的にPRというと利用を増やすためだと考えられるが、それ以上に味方を増やすことが大事だと思う。味方とはスポンサーやサポーター、「良いご意見をくださる方」という意味ではクレーマーも一種の味方と言える。
経営母体である町、田原であれば田原市あるいは渥美半島をPRすることも大事である。三重県の鳥羽市と田原市の伊良湖を結ぶフェリーは2010年ごろ存続の危機にあった。それを阻止するために田原市・鳥羽市両市をあげてキャンペーンをし、その一環として、図書館では鳥羽と田原やフェリーについて展示を行った。ダイレクトに「フェリーがなくなったら困る」とは訴えないが、そういう形で問題の所在に気づいてもらおうとした。もう一つは「魅力対決!豊橋VS田原」展示である。隣の豊橋市と、互いに町の魅力を10枚ずつのパネルにして関連本やグッズと一緒に展示をした。これは地元の魅力が意外とその土地の人たちに知られていないことから企画したものだ。また、市の行政機関と連携した展示も行っている。
次に図書館そのもののPRについて。以前事業仕分けの洗礼を受けた際、図書館の存在意義を「誰でも望む知識や必要な情報を手に入れることを保障する『ただ一つ』の機関」であるとプレゼンし、幸い図書館は今まで通りという結論が出た。そういったピンチはチャンスととらえて、うまく使っていけばいい。同時に、もっと感覚的に図書館の魅力を伝えるためにTwitterを使っている。イベントや地域の話題に加えてスタッフの日常などを、顔文字の多い柔らかい内容でツイートしている。ツイートしてくれたユーザーには返信とフォロー返しもしている。図書館への来館を直接的に訴えるのではなく、「この図書館はおもしろい」「職員と話してみたい」と思ってもらえるように工夫している。それ以外にも「図書館員と書店員が選ぶガチマンガ100」「タハラペディア」「ジュニア司書養成講座」など、読むことをPRする仕掛けもしている。
最後にブランディングについて。図書館におけるブランディングとは、図書館がかけがえのない、他に置きかえられないものであるということに共感してもらうことだと思う。図書館の民営化や指定管理者の導入などが話題だが、それらを阻止できることが究極のブランディングであろう。
〇事例2 (有)宮川春光堂本店 専務取締役 宮川 大輔氏
「なぜPRしなければいけないのか?」その動機がはっきりしていないと、メッセージは相手に届かないだろう。書店も右肩下がりでかなり厳しい状況にあり、もっと積極的に取り組んでいかないと生き残っていけない。そういう切実な思いをメッセージにできるか、書店にしかできないことは何かを考え、PRの土台とした。図書館として伝えたいメッセージを、どのようにイベントや取り組みに変換させて伝えることができるかが重要だろう。
2011年に始めた「朝会」は、あらゆるジャンルの人を招いて話をしてもらい、地域と人を結び付けて関係性を作っていこうと考えたものである。毎週欠かさず開いており、近所のカフェを会場にすることもある。読書会はあまり人が多いとまとまらないので、10人程度で開催している。SNSで何か書くとすぐ炎上してしまう世の中だが、ここではお互いを信頼して本当に今思っていることが口にできる。年1回は屋外で開催することで、通りがかった人がそれを見て参加してくれることもある。これらのイベントに参加するために商店街を訪れ、他のお店に寄ってくれる人もいるので、商店街の経済効果にも貢献している。
書店以外の場所でも、そこに合う本棚を作らせてもらうことでPRしている。「やまなし知会(ちえ)の輪」会という取り組みでは、山梨の各界で活躍している方々のインプット(本)とアウトプット(商品)を並べて販売している。その売上の一部で近隣のカフェに本を置き、そこで見た本を書店で買ってもらうという仕組みにしている。書店や図書館は「知」が集まる場所なので、本の「知」と地域の「知」をうまく組み合わせると商品開発やイベントにつなげていくことができると感じている。
春光堂書店の従業員は3人なので、PRにはどうしてもマンパワーが足りない。自ら発信するだけでなく、イベントの参加者に「今日の朝会はこんな話だった」「今日の会場はこんな感じだった」ということを発信してもらっている。本が好き、図書館が好きで、自分のできる範囲でなら関わってくれる人は結構いるので、プロフェッショナルな技術などを持っている人がいれば、その人たちをつなぎ合わせることで何か生まれるかもしれない。何事もやってみないと分からないので、動きながら考えればいい。様々な人たちと協働して、小さな土台から作っていくのがいいだろう。
〇シンポジウム
日向:図書館は厳しい状況にあるが、地域の中で存在感を高めていくにはどうすればいいのか、そのためのプロデュースについて考えていきたい。まず図書館を認知してもらうところから始める必要があると感じている。
「ライブラリー・アイデンティティ」は非常に重要である。「あなたの図書館はどんなことをしているか?」「どんな役割を果たしているか?」と聞かれたときにきちんと答えられるだろうか。本を買って並べるだけの図書館になっていないか考えてみてほしい。本を貸すことや提示することは手段であり、「何のために」「どんな意義があるか」「それを通じて何をするのか」を考えなければいけない。例えばウィキペディアタウンのように、「知」を持ち寄って課題を解決することで、図書館の価値、所蔵している資料の価値を認めてもらうことができる。新しい利用者を増やしたければ、別な視点で、今までやったことがないイベントを小さいものから少しずつ動かしていくのも一つの手段である。
豊田:「ベストセラーを借りるところ」というのが一般的な図書館のイメージだろう。その地域に関する資料がある場所だとは認識されておらず、それを知ってもらうために地域のPRに関わるのは効果的である。何か言われることはコミュニケーションのきっかけと考え、クレームを受けることよりも、むしろ反応がないことを恐れるべきだと思う。
図書館でイベントを行うと、参加者数や貸出冊数などの評価が必ず付きまとうが、そういうことを言われない小さいレベルから始めてみるといいのではないか。少人数であっても今後どういう広がりを持ちうるかが重要だと考えている。先日、定員20名の大人のお泊り会を行ったが、参加者がSNSで発信しやすい環境をどれだけ整えるかということを重視した。それが新しいファンを呼び込むことにつながり、力を貸してくれる人も現れる。評価というのは自分たちなりの機軸を立てればいい。また、試してうまくいかなかったイベントはやめることも大切だ。やめるための仕組みがあるからこそ、いろいろ試すことができる。
宮川:イベントは小さく始めて大きく育てるのがコツだ。いきなり大きく始めようとすると失敗する場合が多い。それに少人数のほうが濃いものができる。自分がやっていて楽しいと思う環境で育てていけばいい。朝会を開いてみて、夜よりも時間がとれる人が意外と多いということに気づいた。失敗は限りなくたくさんあるが、先が読めないし、何がどう動いていくかわからない時代なので、思いついたことはとにかくやってみるのがいいと感じている。
山梨市立図書館は昭和52年10月に山梨市民図書館としてスタートし、平成28年11月にリニューアルオープンした。複合施設である市民会館の耐震工事に合わせ、安全性の確保・バリアフリー化・省エネ対策が考えられた施設である。1階は利用者目線に立ったレイアウトで一般開架・ブラウジングコーナー・地域資料コーナー・ヤングアダルトコーナーなど、2階は子どもといっしょに楽しめるスペースとして児童開架・おはなしコーナーなど、メディアルーム・図書館ラウンジなども新設し、にぎやかな空間になっている。
ハード面の新設備として、まずICシステムを導入した。これによりカウンター業務の省力化を図ることができ、レファレンスに力を入れられるようになった。BDSゲートを設けることで資料の不明本が少なくなり、入館者のカウントも可能になった。おはなしコーナーと授乳室、幼児トイレを設置し、子どもの読書環境を充実させた。季節を感じられる明るい空間にこだわり、親子でくつろいで過ごせる場所になっている。そのほか、視聴覚資料の視聴・利用者閲覧開放端末・Wi-Fi利用のできるメディアルーム、飲食可能で本と関連した各種イベントを開催する図書館ラウンジ、温湿度管理ができる閉架書庫を新設した。
次にソフト面からサービスの充実について。「すべての人と本をつなぐ」「子どもと本をつなぐ」「人と人をつなぐ」「地域の資料や文化・歴史を次世代につなぐ」「自然と人をつなぐ」の5つのコンセプトのもと、様々なつながりを大事に運営している。低書架にし、生活に密着した実用書や基幹産業である農業関係の本、大活字本を入館してすぐ目につく位置に排架した。月替わりの展示コーナーは司書の個性的発想や技術が生かされ、借りる本に悩んだ利用者が一番先に向かう場所である。また、今年の夏休みからは読書通帳を導入するなど、多様な読書機会の提供に取り組んでいる。
図書館にとってのリニューアルは、利用者の目線で考え、利用者に寄り添う姿勢が大切である。また、地域の自然・文化・歴史を大切にし、住民参加を促す、地域に根差した図書館となることが必要だと考える。課題は多いが、図書館にとって3大要素と言われる職員・資料・施設のバランスの良い充実をはかり、よりよく生きるための生涯学習施設の拠点施設として運営していきたい。
〇事例2 森田 享子氏(南アルプス市立図書館 館長)
南アルプス市では、平成19年の「公共施設再配置方針」において「公共施設の活用方法や運営方法を見直すとともに、適正な配置に再編し、効率的な管理運営を実現する」という方針が出され、平成24年の「市の行政改革に関する諮問機関である行政改革推進委員会からの答申」では、図書館機能を「市の中央図書館を設置することで集約し、人件費の抑制等、効率化を図ること」「地域の図書館については、当面、市民の『学習の場』『交流の場』として機能変更を行い活用すること。将来的には図書館機能を持つ施設は一つとする方向で総合すること」が出された。それを受けて、図書館関係機関での検討・先進図書館視察・多くの市民の声を聞く「これからの図書館を考える会」などを実施し、図書館としての考え方をまとめていった。
平成25年に5館1分館の運営が決定し、より魅力的で市民が気軽に利用しやすい施設にし、図書館サービスをより充実させること、職員を集約し、効率的な事業・企画・運営を図ることが決まった。その中に図書館リニューアルがある。
櫛形図書館から中央図書館への名称変更、各館の正規職員を中央図書館に集約、月曜開館の開始、リニューアル工事を行った。月曜開館にすることで、市内の図書館は必ずどこかが開館している。中央図書館は、中央的機能として市立図書館の中核を担った業務を行っている。新設したふるさと人物室は近代前後に活躍した南アルプス市ゆかりの人々を紹介し、市民に地域の魅力を再発見してもらっている。展示物は担当が新たに掘り起こしたものが数多くあり、関係者から高い評価を得ている。各館についてもそれぞれ整備・コーナーの新設などを行った。
新たなサービス・事業として、読書通帳の導入、講演会の開催、図書館マスコット・ライライグッズ、セカンドブック事業の開始、ビブリオバトルを行った。セカンドブックは小学一年生を対象に、学校図書館司書と公共図書館司書が選んだ本を厳選して冊子を作り、その中から子どもが選んだ本をプレゼントする事業である。また各課とのコラボ企画では、地域包括支援センターや美術館、ユネスコエコパーク推進室とコラボしている。
これからの南アルプス市立図書館は、中央図書館を中心に「市民に喜ばれ、市民の暮らしに役立つ図書館」「人が集まる図書館」「ふるさとが再発見できる図書館」として、南アルプス市の全司書が協力して、市民の満足度の高い図書館を目指していきたい。
〇事例3 林 未希氏(滋賀県立図書館 サービス課)
「学校図書館活用支援事業」は、滋賀県立図書館とその主管課である県の教育委員会生涯学習課による、学校図書館をより使いやすく環境改善するための事業であり、その核がリニューアルである。平成25年度から県の公共図書館協議会が実施した事業を引き継いで拡張し、平成27年度から3年間にわたり実施した。ポイントは、この実施体制が県の職員と学校だけでなく、市町の教育委員会、市町立図書館の司書、地域やPTAのボランティアなど様々な立場の方と協力して実施する仕組みになっていることである。
滋賀県は小中学校における学校司書の配置率が低く、子どもたちの平均読書冊数も全国平均より低い。ただし不読率が全国平均より低いので、本を読まない子が多いのではなく、身近な読書環境である学校図書館を改善することで読書推進ができるのではないかという問題意識があった。授業ができる環境にない・除籍をしていない・本のラベルに対する認識がない・分類記号順に並べてないといった学校図書館があるのが、滋賀県内の実態である。蔵書を整備して授業を行える空間にすることで、学校図書館の本来あるべき姿や活用方法について認識を新たにしてもらいたいというのが事業の目的である。
リニューアルは部屋の大きさ・書架・カウンター・机などの数やサイズの計測から始め、書架の配置計画をたて、分類やラベルの確認を行った。見出しの作成や開架に残す本の確認などは手分けして行った。教育委員会の職員と市町立図書館の司書には、実施校の募集・選定の段階から基本的に全行程に参加してもらった。リニューアル当日は、教職員、児童生徒に加えてPTAやこの日のためにボランティアを募集した学校もあった。
オリエンテーションは可能な限り全職員に参加してもらい、基本的な学校図書館の役割・利用方法から今回のリニューアルの意義や変更点を説明した。その後、資料の使い方の確認や簡単な授業プランの作成、それを踏まえて学校図書館を活用した授業を実践した。その内容や効果を検証する研究会では、オリエンテーションをしたことで先生が児童生徒に図書館の仕組みや使い方を正しく指導できるようになった、学校司書は授業の支援を頼む役割であると初めて認識したといった意見があげられた。
事業の成果について、基本的にリニューアルに関しては高い満足度をいただいている。児童生徒の利用は過半数の学校で増え、教職員には「こんな本があるんだ」「こう使ったらいいんだ」ということを認識してもらえた。実際に使う人に働きかけ、関わってもらうことが必要だと実感した。リニューアルを通じて何を実現させるのか、そのためにどういった方法が一番効果的かを考え、管理職の先生方や教育委員会を巻き込んで実施することが重要であると感じている。
各部会の活動について
児童奉仕研究部会
児童奉仕研究部会は、子どもの読書活動の充実と普及を図ることを目的に活動しており、地域ごとの5ブロックに分かれ、隔月でそれぞれに設けたテーマを研究しています。
また、昨年度より、山梨県内の子どもたち全体に平等で、よりよいサービスが届けられるようにとの思いから、児童奉仕研究部会として「統一テーマ」を設け、全体での研究もスタートしました。統一研究テーマを「おはなし会以外の子供向けイベントと図書館ボランティアとの連携について」とし、他の図書館の状況を知ることによってこんな方法があったのかという「気づき」や、今後のイベント開催に役立つ資料が完成しました。まだまだ手探りの部分が多いのでさらに改善していきたいと考えています。
次に、ブロック研究として、Aブロック「ブックトーク資料研究『児童文学』のリスト作成、児童向け図書館イベント企画の研究」、Bブロック「科学絵本の研究と工作の研究」、Cブロック「高学年に読み聞かせできる本のリスト作成」、Dブロック「月ごとのミニ展示テーマとキャッチフレーズ」、Eブロック「日本の昔話のおはなし会等での活かし方」を行いました。
平成31年2月21日に市川三郷町三珠総合福祉センターにおいて、各ブロックの研究成果を報告する全体集会を開催しました。同日に実施した学習会では、紙芝居文化の会・永瀬比奈氏を講師に迎え、「紙芝居の演じ方について」をテーマに、紙芝居の形式と特性について実演も交えながら講演していただきました。
児童奉仕研究部会の役割は、研究だけでなく、毎回変わる開催会場での見学を通して他館との情報交換を行う貴重な場の提供にあります。部会で得られたことを自館に還元していくことにより、子どもたちが良い本と出会える環境づくりに繋がると考えます。さらなる研究を重ね、公共図書館の児童奉仕活動の現場で中心的な役割を果たせるよう、子どもの読書活動の充実に努めていきたいと思っています。
地域資料研究部会
地域資料研究部会は、山梨県にかかわる地域資料の取り扱い方などに関する研究協議を行い、その成果を公表することによって、地域資料の保存、利用提供等、図書館サービスの質的向上に資することを活動の目的としています。
今年度は2回の研修会を開催しました。第1回は、山梨県立博物館の資料閲覧室とシンボル展「山梨の明治」を見学しました。小畑学芸員に解説していただきながら、時代の転換期に山梨の人々がどう生きていたかを学ぶことができました。さまざまな資料が展示されているなかで、新たな発見もありました。第2回は、山梨県果樹試験場を訪れ、「果樹王国やまなし」と題して果樹栽培の現状や品種改良について曽根普及指導員からご講義をいただきました。場内見学もあり、果樹栽培が盛んな地域の会員からも、そうでない会員からも、レファレンスの参考になったという感想が寄せられました。
また、山梨県にかかわる人物についてまとめた「人物資料リスト」を更新しました。このリストは、山梨県立図書館ホームページにある「発見!やまなしナビ」から見ることができます。
研究会のまとめとして行ったアンケートでは、今後の部会活動について貴重なご意見をいただきました。今後もそれらを参考にしながら、地域資料に関する講演、事例発表、見学、山公図との共催による研修会等の開催を考えていきます。
読書推進研究部会
読書推進研究部会は、読書推進に必要な調査及び研究を行い、学校図書館及び読書や書籍に関係する諸団体と協力・連携し、県全体の読書活動の充実と推進を図ることを目的に、平成25年度に設置されました。
主な活動としては、これまでの山梨県読書推進運動協議会の業務を引き継いだ「こどもの読書週間」「読書週間」の行事報告や「敬老の日におすすめする本」「若い人たちにおすすめする本」の推薦、優良読書グループ推薦等をおこなっています。また、公益社団法人読書推進運動協議会からの機関誌「読書推進運動」、ポスター、ちらしの配布も行っています。
平成30年度県内事情
市町村立図書館の動き
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南アルプス市では、7月5日に白根生涯学習センター・白根桃源図書館が入る複合施設が完成し、竣工式を行った。
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市川三郷町では、町立図書館の新館建設に伴い休館中のため、2018年2月1日から役場本庁舎内に臨時図書コーナーを設置し、火曜日から金曜日の9時から17時に開館している。また三珠分館でも火曜日から土曜日の開館に加え、2月1日より日曜日の9時から17時に開館している。8月21日には、町民会館、町立図書館、体育館の代替施設として整備する「市川三郷町生涯学習センター」の起工式を行った。2020年1月の開館を目指している。
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甲斐市では、生涯にわたる読書をすすめるべく、平成30年度より「甲斐・本の寺子屋」と題した事業を始めた。作家や大学教授、俳優など著名人を招き「甲斐・本の寺子屋」と題した講演会や講座・イベントなどを開催し、本に関わる人々の交流や知的追求の機会を提供する。また7月には地域の書店の従業員や住民が事業内容について提言をする「甲斐・本の寺子屋を支える会」も発足した。今後は図書館司書が参加して意見交換を行い、事業内容の助言を受ける。初回は12月2日に作家の高橋源一郎氏を招き、読書をテーマにした講演を行った。第2回は3月3日に双葉ふれあい文化館において、歌人の俵万智氏、三枝浩樹氏による「詩歌の魅力~龍太・牧水・短歌の現在」と題した対談を行った。
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中央市では、玉穂生涯学習館が開館20周年を迎えた。プレイベントとして開館した年に出版された絵本を展示する企画展を行った他、開館した11月にはセレモニーを行い、記念誌を発行した。
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富士河口湖町では9月、富士河口湖町生涯学習館に読書通帳を導入した。読書通帳と機械の導入は南アルプス市に続き県内2館目となる。企業版ふるさと納税として、地域の金融機関の寄付をもとに、通帳5000冊を製作した。
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平成31年2月、同じく富士吉田市が平成31年度からの読書通帳事業開始に向け、導入費用の寄付を金融機関から受けた。
県立図書館の動き
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言語学者の金田一秀穂氏が館長に就任し、阿刀田高前館長は名誉館長に就任した。
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4月には2012年11月の開館からの入館者が500万人に達した。
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7月15日には館長講演会「AIと言葉」を開催した。
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11月には情報システム機器の入れ替えを行い、山梨県図書館情報ポータルを整備するとともに、地域情報発信端末としてデジタル情報スタンドを設置した。
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6月から9月にかけては、「第5回贈りたい本大賞」を募集し、11月、応募総数5,654点から大賞5点を決定し表彰式を行った。あわせて阿刀田名誉館長の講演会と館長とのトークショーを開催した。
- 2月16日には「辻村深月トークショー」&「やま読シンポジウム~辻村深月氏とやまなしの読書について考える」を実施した。
その他の動き
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山梨県立図書館名誉館長である阿刀田高氏が11月5日、文化功労者に選ばれた。
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甲州市では10月30日、勝沼図書館がLibrary of the Year2018の最優秀賞&オーディエンス賞を受賞した。
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県教育委員会は、やまなし読書活動促進事業の一環として、書店と県内図書館を利用しスタンプカードを完成させる「やま読ラリー」と、図書館や書店が同じテーマで本のコーナー設置を呼びかける「やま読ブックフェア」を開催した。
平成30年度事業報告事務局だより
総会
開催日:5月31日(木)
場所:山梨県立図書館 多目的ホール
議題:平成29年度事業報告及び決算報告 平成30年度事業計画及び予算
参加者:42名
第1回全体研修会
開催日:5月31日(木)
場所:山梨県立図書館 多目的ホール
講演:「図書館業務の傾向と対策」
報告1「図書館で働くこと」
講師:千野 国弘氏(山梨県立図書館 司書幹)
報告2「図書館を気持ちよく使ってもらうために」
講師:坂本 和代氏(甲斐市立図書館 総務係長)
参加者:106名 ※第1回図書館職員専門研修と合同開催
第2回全体研修会
開催日:8月31日(金)
場所:山梨県立図書館 多目的ホール
内容:講演「本と言葉」
講師:金田一 秀穂氏(山梨県立図書館館長)
参加者:118名
平成30年度第32回山梨県図書館大会
開催日:11月30日(金)
場所:富士河口湖町勝山ふれあいセンター
テーマ:図書館の可能性を広げよう~地域の活力源をめざして~
内容:
- 記念対談 「史料を読み解く 創作に生かす」
江宮 隆之氏(作家)
堀内 亨氏(山梨県立富士山世界遺産センター主幹)
- 第1分科会 シンポジウム「図書館をプロデュース」
シンポジスト:豊田 高広氏(愛知県田原市図書館館長)
宮川 大輔氏((有)宮川春光堂本店専務取締役)
コーディネーター:日向 良和氏(都留文科大学准教授)
- 第2分科会 事例発表「新たなサービスを目指して―図書館のリニューアル―」
発表者:武井 さつき氏(山梨市立図書館館長)
森田 享子氏(南アルプス市立図書館館長)
林 未希氏(滋賀県立図書館サービス課専門員)
参加者:168名
児童奉仕研究部会
全体会
第1回 6月21日(木) 笛吹市スコレーセンター
第2回 2月21日(木) 市川三郷町三珠総合福祉センター
A支部 6回
B・C・D・E支部 5回
地域資料研究部会
第1回 6月13日(水)
- 山梨マークの作成について
- 「人物資料リスト」の更新について
- 山梨県立博物館シンボル展「山梨の明治」視察
第2回 11月14日(水)
- 講義「果樹王国やまなし~果樹の歴史とこれからの可能性~」
講師 曽根 英一氏(山梨県果樹試験場主幹・普及指導員) - 山梨県果樹試験場視察