? 赤飯にナンテンの葉を入れるのはなぜか。

【回答】

赤飯を贈るときにナンテンの葉を敷く風習は、江戸時代にはあった。赤飯にナンテンの葉を敷くのは、1.ナンテンを難転(難を転ずる)の意とする、2.ナンテンの葉の薬効により食物の腐敗を防ぐ、3.青精飯(せいせいはん)との関連による、などの説がある。

【調査過程】
■『世界大百科事典』(平凡社 1988)で「赤飯」を引くが、ナンテンについては記載がない。「ナンテン」「強飯(こわめし)」の項を見るが記載なし。
■『日本民俗大辞典』上(吉川弘文館 1999)で「赤飯」「強飯」を引くが、ナンテンの葉については記載なし。この時、まだ下巻は発行されていず、「ナンテン」については未調査。
■『図説江戸時代食生活事典』(日本風俗史学会編 雄山閣出版 1978)の総索引で「赤飯」を引き、「小豆」の項を見ると、「江戸期の学者によると……。吉事や祝儀に用い、ナンテンの葉を敷くのがならわしであった」とあるが、その理由は記載されていない。
■『古事類苑』植物部一(吉川弘文館 1971)で「南天燭」の項を見るが、関連の記載なし。『広文庫』第14巻(物集高見著 広文庫刊行会 1919)で「南天燭」の項を見ると、「……又仙方に南燭の汁にて飯を製する方ありて、其の名を青精飯という、其の色瑠璃のごとくにてめでたき薬なり、今時人の許に飯を送るに南天の葉を敷くも此の縁なるべし」(「夜光璧」)、「今の俗、赤豆飯を贈るに、南天の葉を志くハ、青精飯の遺意なるべし」(「乗穂録」)とある。また、「……又夏日食物を貯へておくに、南天の葉を掩ひ、下にも葉を志けバ、食物腐る事なく味変ぜず……」(「故実叢書安齋随筆」)などの記載あり。
■「青精飯」について調べる。『大漢和辞典(修訂版)』12巻(諸橋轍次著 大修館書店 1986)によると「青精」は南燭の異称で、青精飯は「……四月八日、南天の枝葉を採って搗いた汁に米を浸し、蒸して乾燥したもの。久しく服用すれば顔色を好くし寿を増すといふ」とある。
■植物事典で「ナンテン」の項を見る。『図説草木辞苑』(柏書房 1988)には用途として「装飾(折敷など)、魔除け」などとある。『図説花と樹の大事典』(柏書房 1996)には、「赤飯の重箱や魚を贈るのに掻敷きとしてナンテンの葉を敷くが、これは葉の薬用性からきているとも考えられる」などの記載あり。
■薬草の事典にあたる。『本草図譜総合解説』4巻(同朋社出版 1991)の「南燭」の項には「葉を食物の上に載せて進物とする風習はナンテンを難転と解し、食あたりの難を転ずるまじないである」とある。『薬用植物画譜』(刈米達夫解説 武田薬品工業 1971)には、「南天燭の葉は本草綱目に「気力を益し、眼を明らかにし、白髪を黒くし、老を防ぐ」とあり、葉を浸した水で米を炊くと飯に光沢を添え、能く陽気をけるとある。わが国で赤飯に南天の葉を添えるのもこの古事によるのであろうか」とし、更に「本草綱目に南天燭の別名として鳥飯草、墨飯草などをあげているが、これは牧野博士説のシャジャンボの方かと思われる」と記載あり。

【キーワード】
■赤飯■ナンテン

【参考資料】
◆『広文庫』第14巻(物集高見著 広文庫刊行会 1919)
◆『本草図譜総合解説』4巻(同朋社出版 1991)
◆『図説花と樹の大事典』(柏書房 1996)
◆『薬用植物画譜』(刈米達夫解説 武田薬品工業 1971)

【調査にあたって】
ナンテン=難転だろうと考えて調査を始めた。最初に引いた百科事典の「赤飯」の項に、「赤飯は祝儀に使うことが多いので、アズキの皮の破れるのを腹切りに結びつけて忌み、皮の破れにくいササゲを使うことも多い」「ゴマ塩は黒ゴマを用い、これも〈切る〉〈する〉を忌んで切りゴマ、すりゴマを避け、いっただけのゴマに塩を合わせて用いる」とあり、縁起をかつぐ意味の昔からの風習であれば、民俗学の事典で簡単にわかると思ったのだが、「これでわかるだろう」と思った資料が全くはずれてしまった。『広文庫』によると、南天の葉は昔から食物の腐敗を防ぐとされており、薬草としても利用されているらしいので、植物事典や薬草の事典をあたることにした。一見縁起かつぎのような昔からの風習や言い伝えには、科学的な理由があることが多いが、実際にナンテンには食物の腐敗を防ぐような成分が含まれているようだ。しかし、その成分については確認できなかった。

作成日:1999/11/26