? 芭蕉の句「もろもろの心柳に任すべし」と「旅人とわが名呼ばれん初時雨」の出典を知りたい。

【回答】

「旅人とわが名呼ばれん初時雨」は『笈の小文』が出典。「もろもろの心柳に任すべし」は、芭蕉の句とする資料もあるが、涼菟(りょうと)の句で「水薦刈(みすずかり)」「姨捨(おばすて)とはず草」が出典であるとするものもある。

【調査過程】
■依頼者によると、この2句は、芭蕉の句として句碑にもなっているもので、それぞれの出典を知りたいとのこと。『芭蕉・蕪村発句総索引本文索引篇』(道本武彦 谷地快一共編集 角川書店 1983)により「旅人とわが名呼ばれん初時雨」は『笈の小文』が出典であることが確認できる。
■ところが、本書によると「もろもろの……」の句は『もとの水』、『一串抄』収録とされるが誤伝であり、蕉門の俳人涼菟の作で、『水薦刈』、『姨捨とはず草』に収録されていると記載あり。
■『近世俳句大索引』(安藤英方編 明治書院 1959)を見てみると、芭蕉の句とされ、『もとの水』『一葉集』収録となっている。
■『もとの水』、『一串抄』、『一葉集』について調べる。『俳諧大辞典』(伊地知鉄男ほか編 明治書院 1957)によると、『もとの水』収録作品の中で確かな作品は11句で、80句は存疑、2句は誤伝とされている。『総合芭蕉事典』(尾形仂ほか編集 雄山閣出版 1982)によると『一葉集』は他人の作品の混入が欠点とされている。『一串抄』については記載なし。
■偽作と誤伝を除いた全発句が掲載(存疑も掲載)されている『芭蕉全句集』(桜楓社 1976)と、『校本芭蕉全集』2巻(角川書店 1963)で「もろもろの……」の句を確認すると、これらには収録されていない。

【キーワード】
■松尾芭蕉■岩田涼菟(イワタリヨウト)■もろもろの ■旅人と■俳句

【参考資料】
◆『芭蕉・蕪村発句総索引本文索引篇』(道本武彦 谷地快一共編集 角川書店 1983)
◆『近世俳句大索引』(安藤英方編 明治書院 1959)
◆『芭蕉全句集』(桜楓社 1976)
◆『校本芭蕉全集』2巻(角川書店 1963)

【調査にあたって】
古い資料では芭蕉の作とされていたものが、研究の成果によって存疑・誤伝とされる場合があり、色々な資料を比較、検討して回答した。以前にも同じような依頼があって調べたところ、芭蕉の作とされている句碑が、4つともそうではなかったということもあった。

作成日:2000/3/31