? 江戸時代の安政期に流行した狐狼狸(コロリ)・コレラの当時の蘭方医の治療方法を知りたい。

【回答】

長崎出島のオランダ人医師、ポンペは、「コレラ患者にキニーネとアヘンを服用させ、温浴させる」治療方法を行った。また、長崎奉行所へ生鮮食品の禁止党の予防方法の提言、コレラの解説書「転寝の夢」の作成、全国配布など、コレラの感染拡大防止に努めた。
適塾の緒方洪庵はキニーネの使用に対して賛成ではなく、モストら複数のオランダ医学書からコレラ対策方法を抜き出した「狐狼痢治準」を記し、キニーネ以外の対策方法を示した。一方適塾の門人矢田敦は、別府でポンぺの処方と同様な水薬を処方して治療を行い、別府では死者が出なかった。しかし、完全な治療方法・薬はなく、民衆の多くは神仏に頼り、お札や加持祈祷などでコレラ退散を願った。

【調査過程】
■件名「コレラ」「コロリ」で資料検索。『幕末狂乱(オルギー) コレラがやって来た!』(高橋敏著 朝日新聞社 2005)には、韮山代官より紹介された特効薬として、サンザシ他を紹介。
■件名「医療−歴史」「病気−歴史」「医学−歴史」で資料検索。『日本医療史』(吉川弘文館 2006)によると、コレラ流行と蘭方医の項に、長崎のオランダ人医師ポンペや弟子の松本良順によるコレラ対策方法、別府の蘭方医矢田敦の治療例が紹介されている。他、適塾の緒方洪庵が「狐狼痢治準」を記したことが紹介されている。
■人名「ポンぺ」「松本良順」「緒方洪庵」「矢田敦」で検索。『ポンぺ』(宮永孝著 筑摩書房 1985)には、キニーネ、アヘンを用いた治療方法が紹介されている。また、コレラの解説書「転寝の夢」を記したことが紹介されている。『松本順自伝・長与専斎自伝』(平凡社 1980)にも、ポンぺが行ったコレラの対策方法が記載されていた。
■インターネット検索を行う。「虎狼痢治準」は早稲田大学が電子化し、ホームページで公開中。「転寝の夢」は「安政午秋頃痢流行記」に「轉寝の遊目」で掲載されているものを長崎大学が電子化し、ホームページで公開中。

【キーワード】
■コレラ■伝染病■狐狼狸(コロリ)■ポンぺ■松本良順■緒方洪庵

【参考資料】
◆『日本医療史』(吉川弘文館 2006)
◆『図説日本の“医”の歴史 上 通史編』(小池猪一著 大空社 1993)
◆『ポンぺ』(宮永孝著 筑摩書房 1985)

【調査にあたって】
幕末のコレラ流行は、治療方法がなかったこともあり大災害をもたらした。今回の事例には記さなかったが多くの著名人も亡くなっている。ポンぺの一番弟子、松本良順もコレラに罹患し、ポンぺによる治療方法で回復していることが自伝に記されている。当時の予防の難しさが感じられた。

作成日:2009/9/1