? 「裏を見せ表を見せて散る紅葉」は誰の句か。また何という本に載っているか。

【回答】

この句は、もともと谷木因が詠んだ「裏ちりつ表を散つ紅葉哉」という句を良寛が作り直したもので、『はちすの露』に収録されている。

【調査過程】
■『評解名句辞典』(麻生磯次 小高敏郎共著 創拓社 1990)など、俳句に関する辞典類を調べてみるが見つからない。また、季語の辞典で「紅葉」の項を探すが、この句は出ていない。
■質問者が高僧の言葉ではないかと話していたので、『仏教故事名言辞典』(須藤隆仙著 新人物往来社 1982)『仏教比喩例話辞典』(森章司編 東京堂出版 1987)などを調べてみるが、こちらにも記載されていない。
■『故事・俗信ことわざ大辞典』(尚学図書編集 小学館 1982)など、ことわざに関する辞典類を調べてみるが、見あたらない。
■インターネットで見つからないだろうかと、検索サイトで「裏」「表」「紅葉」をキーワードとして検索したところ、良寛の句として紹介しているサイトがあった。
■『良寛事典』(加藤僖一著 新潟日報事業社出版部 1993)や良寛の句集を見るが、記載されているものが見つからない。ようやく『校注良寛全句集』(谷川敏朗著 春秋社 2000)に、「諸本から削除した良寛の句」として記載されているのが見つかり、出典は貞心尼の『はちすの露』であることが分かった。
■『「はちすの露」を読む』(喜多上著 春秋社 1997)を見ると、この句は谷木因の「裏ちりつ表を散つ紅葉哉」によっているとの『良寛歌集』(角川文庫)の解説があり、病床にあった良寛が、他人の句を「自分らしく口あたりのよい明快な句に仕立てなおした」ものであると書かれていた。谷木因は美濃の俳人で、松尾芭蕉と親交があり、この句は元禄13年の『一幅半』に掲載されているとのことだった。

【キーワード】
■良寛■谷木因(タニボクイン)■「はちすの露」■裏を見せ

【参考資料】
◆『校注良寛全句集』(谷川敏朗著 春秋社 2000)
◆『「はちすの露」を読む』(喜多上著 春秋社 1997)

【調査にあたって】
インターネットに助けられることが多い。必ずしも正確な情報ばかりではないが、何か手がかりを得ようと検索してみることもある。今回は、「良寛の句だ!」と喜んだのもつかの間、さらなる調査に進むケースとなった。

作成日:2000/12/19