? 島崎藤村の詩だと思うが“ながれのみずのひともとは、みそらのいろのみずあさぎ……”という詩の全文を知りたい。

【回答】

上田敏訳詩集『海潮音』に掲載のウィルヘルム・アレントの「わすれなぐさ」である。『海潮音』は『上田敏全訳詩集(ワイド版岩波文庫)』(岩波書店 1994)、『定本上田敏全集』1巻(教育出版センター 1978)などに所収。

【調査過程】
■依頼者は「島崎藤村の詩集『夏草』にあった思う」とのこと。自館システムで「ナツクサ」を書名検索し『藤村全集』1巻(筑摩書房 1976)所収の「夏草」を見るが該当なし。
■『藤村全集』所収の「夏草」以外の詩も見てみるが、該当なし。
■『人物記念館事典』(日外アソシエーツ編・発行 1996)で藤村記念館を探し、調査を依頼。
■藤村記念館から「上田敏訳詩集『海潮音』に掲載のヰルヘルム・アレントの「わすれなぐさ」である」と回答。
■自館システムで「カイチョウオン」を書名検索し、所蔵を確認。

【キーワード】
■ウィルヘルム・アレント■「わすれなぐさ」■ながれのみずの■詩

【参考資料】
◆『上田敏全訳詩集(ワイド版岩波文庫)』(岩波書店 1994)
◆『新・ちくま文学の森』1(筑摩書房 1994)

【調査にあたって】
依頼者は年輩の女性で、「これは十代の頃に読んだ詩を記憶していたもので、藤村のものだと思うのだが見つからない。年を経て今の自分の心境に合うので、ぜひまた読みたい」とのこと。詩を探すというのはなかなか難しく、「島崎藤村」をキーに探したが、全集を見ても該当がなく、全く行き詰まってしまった。詩ではなく、小説の一部分という可能性もあるだろうと考え、「何か御存知のことがあれば教えてください」と藤村記念館(〒399-5102 長野県木曽郡山口村神馬籠4256-1 TEL.0264-59-2047)にお聞きした。藤村記念館からは、すぐに回答のFAXをいただいたが、全く予期せぬ答えだったので驚いた。お礼かたがた電話で調査方法をお尋ねすると、「現在上田敏に関する企画展示を行っているので、つい最近目にした」とのこと。この詩は有名なカール・ブッセの「山のあなた」の直前に掲載されている。依頼者が藤村だと勘違いしたこと、藤村記念館で折しも上田敏の展示をしていたこと、この二つの偶然が重なったのだが、私には、まるで詩の方から会いに来てくれたように感じられた。依頼者にこの経緯を報告し、「この詩とは、また巡り会う運命だったんですね」などとお話したところ、思い出のある詩だということでとても喜んでいただいた。探していた詩のタイトルが「わすれなぐさ」だったため、余計ドラマティックに感じられた。

作成日:1999/2/13